その1: 記述的商標
記述的商標とは、一般的には商標法第3条第1項第3号に該当する商標のことを指しています。商標法第3条第1項第3号には下記のように記載されています。
その商品の産地、販売地、品質、原材料、効能、用途、形状(包装の形状を含む。第二十六条第一項第二号及び第三号において同じ。)、生産若しくは使用の方法若しくは時期その他の特徴、数量若しくは価格又はその役務の提供の場所、質、提供の用に供する物、効能、用途、態様、提供の方法若しくは時期その他の特徴、数量若しくは価格を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標
そして、該規定に該当する商標は商標登録を受けられませんということを商標法第3条第1項柱書で定めています。
これにはどんな商標があるかといえば、例えば、
第3類「トルマリンを配合してなるせっけん」について「TOURMALINE SOAP・トルマリンソープ」(平成11年(行ケ)410号)
第11類「焼却炉」について「負圧燃焼焼却炉」(平成12年(行ケ)76号)
第30類「茶」について「サラシア」(平成13年(行ケ)第574号)
第31類「フラワーセラピーに供する花」について「フラワーセラピー」(東京高平成13年(行ケ)207)
第30類「みそ、ウースターソース、ケチャップソース、しょうゆ、食酢、酢の素、そばつゆ、ごま塩、食塩、すりごま、食用粉類、食用グルテン、アイスクリームのもと、シャーベットのもと、氷等」及び
第31類「あわ、きび、ごま、そば、とうもろこし、ひえ、麦、籾米、もろこし、うるしの実、ホップ、飼料用たんぱく等」について
「うめ/梅」(平成16年(行ケ)第189号)
第36類「株式市況に関する情報の提供、商品市場における先物取引の受託、生命保険契約の締結の媒介、生命保険の引受け、土地の貸与、土地の売買、土地の売買の代理又は媒介、建物又は土地の情報の提供、骨董品の評価、美術品の評価、宝玉の評価、企業の信用に関する調査等」について
「情報マネジメント」(平成16年(行ケ)第177号)
第41類「技芸・スポーツ又は知識の教授、研究用教材に関する情報の提供及びその仲介、セミナーの企画・運営又は開催等」について
「再開発コーディネーター」(平成17年(行ケ)第10350号)
第4類「せっけん類、歯みがき、化粧品、香料類」について「ワイキキ」(昭和53年(行ツ)第129号)
第43類「饅頭」について「平和台饅頭」(昭和35年(行ナ)第146号)
第29類「茶、コーヒー」について「GEORGIA」(昭和60年(行ツ)第68号)
第28類「液晶画面付き電子ゲームおもちゃ(液晶画面付き電子ゲームおもちゃ用のプログラムを記憶させたROMカートリッジ、液晶画面付き電子ゲームおもちゃに接続して用いられる専用イヤホン、その他の付属品を含む)、その他のおもちゃ、人形、囲碁用具、将棋用具等」について
「インテリアショップ」(平成16年(行ケ)第369号)
第30類「菓子、パン」について「瀬戸大橋」(昭和62年(ヨ)第29号)
第43類「菓子及び麺麭の類」について「阿寒湖」(昭和29年抗告審判第1468号)
第20類「ロールブラインド、ロールスクリーン等の巻き取る機構(構造)を有する商品」について「マキトール」(平成元年審判第2238号)
第7類「滑り止め付き建築又は構築専用材料」について「スベラーヌ」(昭和56年(行ケ)第138号)
第26類「年鑑」について「美術年鑑」(昭和51年(行ケ)第84号)
等が挙げられます。
上の例をご覧になっていただければ、およそどんな商標が記述的商標に該当するかは分かって頂けたのではないかと思います。
このような商標を商品に付けて商標権を取得できるなら、分かり易くかつその権利も大きいと考えられます。
従って、商標を選択する際にはこれに類似する商標を考えてしまうことが多々あります。
しかし、記述的商標と認定されてしまっては登録を受けることができません。でも、ときどき、どうしてこの商標が記述的商標に該当するのと、思うような商標でもこの拒絶理由通知を受けることがあります。そりゃあ辞書かなんかで調べれば、そういう意味かもしれないけど・・・。こんな商標、ほかの誰かが使用するとも全く考えられないのに、と思うものもあります。
それで、これに該当しないようにしながら造語商標を考えていくことも必要と思います。
その2: 歴史上の人物名を含む商標
歴史上の人物を主人公としたテレビドラマ等が放映されたりすると、その主人公の名前等を含む商標が盛んに出願されることがあります。近年では「坂本龍馬」などがその代表格です。
何故、そのような商標を取得したいかといえば、もともと、歴史上の人物名は多くの人に知られており、加えて、テレビ等で放映されたとなると、それによる顧客吸引力は相当強いものとなるからです。
しかし、そのような商標を特定人に独占させてよいのかという問題があります。例えば、既に公的機関が使用していたり、その地域の振興のため、又は、観光等のために使用していることもあるからです。そのような場合に、特定の者に独占権を付与したのでは、その地域の産業に悪影響を及ぼすこともあり得ます。
そこで、かかる商標は、商標法第4条第1項第7号に該当するか否かにより拒絶するか否かを判断することになっています。
商標法第4条第1項第7号は下記の通りであり、これに該当する商標は登録を受けられないことになっています。
「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」
上記規定に該当するか否かを如何にして判断するかというと、およそ以下に掲げた事情を総合的に勘案して判断するということになっています(審査便覧)。
(1) 当該歴史上の人物の周知・著名性
(2) 当該歴史上の人物名に対する国民又は地域住民の認識
(3) 当該歴史上の人物名の利用状況
(4) 当該歴史上の人物名の利用状況と指定商品・役務との関係
(5) 出願の経緯・目的・理由
(6) 当該歴史上の人物と出願人との関係
といわれても、実際に採択しようとしている商標が、上記規定に該当するか否かを判断することは容易ではないでしょう。まあ、簡単に言えば、このように規定されているということは、登録を受けることは容易ではないと考えておいた方が無難なのでしょう。
それでも、現在、その歴史上の人物名を含む商標の登録がたくさんあるものなら、その人物名を使用した商標は登録される可能性が高いのではないかと考えて、過去に出願したことがありました。半信半疑でしたが、ダメもとでよいと考えてトライしてみたのです。どんな商標かといいますと「信玄メロン」というものであり、指定商品はもちろん「メロン」です。
「信玄ΔΔΔ」などという商標は多数登録されているので、今さら、地域振興を阻害するなどということはなさそうですし、むしろ、山梨県在住の農業法人が出願するのですから権利が発生すれば、山梨県の農業振興に役立つとも思え、従って、公序良俗に反するなどとはとても思えません。また、随分前の人物であるからして、具体的な関係者など存在するわけもないのです。当然、拒絶理由通知が送達されましたので、いろいろ反論したのですが、受け入れられず拒絶されてしまいました。何となく納得がいきませんでしたが、審判を請求すれば相当の費用もかかることですから、断念せざるを得ないことになってしまいました。
このような場合に不服があるなら審判を請求すればいいじゃない、とおっしゃる人がいます。しかし、審判を請求すれば相当の費用がかかります。大会社ならともかく、商標権を得ようとしている人たちは個人の人なんかもたくさんいて、そうは簡単には審判など請求できないのです。法的な理屈はその通りですが・・・。やはりお金持ちでないと知的財産権も取ることができないということなのでしょうか。一般的にはこんな状況で権利取得を断念せざるを得ないこともたくさんあるということを考えてほしいとも思います。
その3: 商標の使用の意志(商標の使用証明)
商標登録出願をする際に、一つの商品(役務)区分に含まれる商品(役務)をあまりにたくさん指定すると、商標法第3条第1項柱書の拒絶理由通知を受け取ることになります。即ち、使用する意思があるか否かの確認がなされます。
使用の意志の確認がなされる場合は、具体的には、下記の通りです。
(1)小売等役務について
(a)「衣料品、飲食料品及び生活用品に係る各種商品を一括して取り扱う小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」(総合小売等役務)に該当する役務を個人が指定してきた場合。
(b)総合小売等役務に該当する役務を法人が指定してきた場合であって、「自己の業務に係る商品又は役務について使用」をするものであるか否かについて職権で調査を行っても、出願人が総合小売等役務を行っているとは認められない場合。
(c)類似の関係にない複数の小売等役務を指定してきた場合。
(2)商品・役務の全般について
1区分内において、8以上の類似群コードにわたる商品又は役務を指定している場合には、原則として、商品又は役務の指定が広範な範囲に及んでいるものとして、商標の使用又は使用の意志の確認を行う。
商標登録出願時に、当然、指定商品(役務)を決定しますので、その段階で商標法第3条第1項柱書の要件を具備するか否かは分かります。従って、出願時に使用証明を提出できるか否かを予め検討致します。
もちろん、出願時に提出できるなら、その時点で提出しておくに越したことはありません。しかし、まず、出願して先願権を確保しておくことが先決ですので、余り手数がかかるものであれば、出願後に提出します。提出の方法は上申書で提出したり、拒絶理由通知を受け取った後に意見書で提出したりできます。
使用証明書が提出できるなら良いですが、出願時には見切り発車しているということもあります。即ち、拒絶理由通知を受けた時には提出できるだろうという予定で出願している場合です。この場合には拒絶理由通知を受け取った時に提出できないこともあります。事業計画ができていれば事業計画書を提出すれば、この拒絶理由をクリアできます。事業計画書はある程度の計画を明確に記載しておけば余り厳密には審査されないように思います。もちろん、いい加減なことや虚偽を記載してはいけません。
使用証明書を提出できない、事業計画書も提出できないとなれば、指定商品(役務)を補正により削除して、上記規定を具備するようにしなければなりません。削除した部分を分割出願するという手段もあります。